2010年6月26日土曜日

路地から卵

 小学生時代の駒形さんは、ウルトラマンの怪獣ケシゴムを集めるのが好きで、日曜日の早朝、駄菓子屋の前に行き、お小遣いから二十円でガチャポンをするのが何よりも楽しみだった。その駄菓子屋は、店主が老人だったためか、何故か朝六時ぐらいから店を開けていた。

 両親がまだ寝ている間に、家を抜け出す。走って五分ぐらいの処にある、その駄菓子屋までわくわくしながら行き、おじいちゃんおばあちゃんに挨拶してガチャポンを回す。既に持っているものとダブったりしてハズレの週もあれば、自分が好きな怪獣が出るアタリの週もある。今週はアタリだった。

 ほくほく顔で家まで走って帰る間、ある路地の前で、ただごとならない雰囲気を察し、駒形少年は立ち止まった。

「あっ」

 路地から飛び出て来た卵が、浮いたまま空中を滑るように移動していた。駒形少年の前を通過し、その路地の対面にある中学校の壁にぶつかってパシャッという音を立てた。

 駒形少年は、壁についたドロリとした黄色い跡と、今しがた卵が飛び出して来た路地とを交互に見た。

 おかしな雰囲気はまだ消えていない。

 駒形少年は、じっと路地を見据えた。見ていると、予想通り二個目の卵が現れ、先ほどと同じ勢いで壁にぶつかり、湿った軽い音を立てて砕けた。

 それが合図のように、駒形少年は路地まで走り、怖々覗き込んだ。誰もいない。路地は私道で、奥に門があるが、その間には隠れる場所は無い。振り返って中学の壁を確認する。やはり二つのドロっとした黄色い跡がへばりついていた。

 駒形少年は家まで一目散に帰った。両親はまだ寝ていた。母親の布団に潜り込んだ。

 後日見に行くと、中学校の壁には、都合六個もの卵の砕けた跡があったという。


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