空梅雨の年だったという。
丁度六月も中旬を過ぎた頃、鷹野さんは、公園の木陰のベンチに腰掛けて、コンビニで買って来たサンドウィッチを食べていた。
会社で食べても良かったのだが、冷房が苦手なこともあり、出来れば外気に当たっていたかった。真上から照りつける太陽はじりじりと容赦なかったが、木陰だと意外と涼しい。
サンドウィッチを食べ終わり、缶コーヒーを開けた。
風がさっと通り抜ける。湿度が低い。気持ちよい風だった。
公園と道路を隔てる生け垣が、鷹野さんの右側に伸びている。手入れが追いついていないのだろう。伸びた若い枝が何本も垂直に伸びていた。予算の関係で秋にだけ手入れをすることにしたのかもしれない。
生け垣越しに、昼食に急ぐ人々の姿をぼーっと眺めていると、次第に眠くなって来た。しかし、こんな所でうたた寝をする訳にもいかない。
鷹野さんは残りの缶コーヒーを一気に流し込んだ。
さて、午後の仕事に戻るか。
立ち上がろうとすると、急にざわざわと音がした。
何だ?
音は生け垣を揺する音のようだ。
——野良犬か?
動物が生け垣を揺すっているのだと思った。しかし、公園側からは見えない。
びゅう!
生け垣の上を走り抜けるように突風が吹いた。鷹野さんの脇に置いてあったコンビニの袋が、風に煽られて飛んで行った。
何だ?
先ほどまで生け垣の上に伸びていた、無数の若い枝が、誰かが手折るようにパキンパキンと音を立てながら、地面に散った。刃物で薙がれた様な切り口だったという。
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