2010年6月28日月曜日

深夜のドライブ

 三十年近く前の話だ。

 鎌田さんは、妙に目が冴えてしまったので、深夜のドライブに出かけた。最初はコンビニで雑誌でも買って帰るかと思っていたが、気づくと峠に向かっていた。山道の急なカーブを辿り、坂を上り、しばらく走ると、覚えの無い岐路があった。

 ——おし、行ってみるか。

 ぐねぐねとカーブが続いた後に、真っすぐの一本道に出た。

 こんな所、あったっけか。

 頭の中に地図を思い描いても、そんな一本道があるはずは無かった。途中で引き返そうかと思ったが、ターン出来るようなスペースが無かったので、仕方なくだらだらと走って来たのだ。

 三十分以上、一本道を走った。

 あれ?

 道のどん詰まりに、進入禁止の看板が出ていた。その前にターン出来るほどのスペースがある。看板の向こうは鬱蒼とした山だ。

 舌打ちをした。

 一服して帰るか——。

 蒲田さんは仕方なくUターンして元来た道を戻り始めた。

 しばらく行くと、一本道の街灯の無い山道を、向こうから着物姿の老若男女が歩いていた。

 えっ

 先ほど走って来た時には、そんな人影は無かった。

 親子連れ、老人、若い男女。

皆、浴衣を着ていた。子供達の手にはヨーヨーに綿飴。何処かのお祭りに行った帰りのようだ。楽しそうな笑顔が、薄赤い光に照らされていた。

 お祭りか——。

 だが、ちらっと見た今は深夜三時だ。

 蒲田さんは車のスピードを上げた。

 今でもそれが何だったか分からないという。


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