三十年近く前の話だ。
鎌田さんは、妙に目が冴えてしまったので、深夜のドライブに出かけた。最初はコンビニで雑誌でも買って帰るかと思っていたが、気づくと峠に向かっていた。山道の急なカーブを辿り、坂を上り、しばらく走ると、覚えの無い岐路があった。
——おし、行ってみるか。
ぐねぐねとカーブが続いた後に、真っすぐの一本道に出た。
こんな所、あったっけか。
頭の中に地図を思い描いても、そんな一本道があるはずは無かった。途中で引き返そうかと思ったが、ターン出来るようなスペースが無かったので、仕方なくだらだらと走って来たのだ。
三十分以上、一本道を走った。
あれ?
道のどん詰まりに、進入禁止の看板が出ていた。その前にターン出来るほどのスペースがある。看板の向こうは鬱蒼とした山だ。
舌打ちをした。
一服して帰るか——。
蒲田さんは仕方なくUターンして元来た道を戻り始めた。
しばらく行くと、一本道の街灯の無い山道を、向こうから着物姿の老若男女が歩いていた。
えっ
先ほど走って来た時には、そんな人影は無かった。
親子連れ、老人、若い男女。
皆、浴衣を着ていた。子供達の手にはヨーヨーに綿飴。何処かのお祭りに行った帰りのようだ。楽しそうな笑顔が、薄赤い光に照らされていた。
お祭りか——。
だが、ちらっと見た今は深夜三時だ。
蒲田さんは車のスピードを上げた。
今でもそれが何だったか分からないという。
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