2010年6月26日土曜日

赤垢

 玄さんの高校時代の先輩の話である。
「変な色の垢が出るんだよなあ」
 部活の時に、その先輩が玄さんに言うともなく呟いた。
 首筋をぼりぼりと掻く。
「どうしたんスか?」
 玄さんが訊くと、先輩は今しがた首筋を掻いていたその爪を確認すると、
「ほれ」
と、言って見せてくれた。爪の間に真っ赤な垢のようなものが溜まっていた。
「これ、血ぃですかね?」
 玄さんは先輩の首の後ろを覗き込んだ。日焼けした首筋には、うっすらと白く、引っ掻いた跡が付いていたが、傷も血も着いていなかった。
「血じゃないんだよな」
 先輩は爪の間に溜まった、その赤い何かを爪でほじくり、グラウンドの土に弾いた。
「変だろ」
 先輩は玄さんに言った。
 部活が終わり、チームの皆で学校の近所の駄菓子屋でアイスを食べながら、その話になった。
 一人の先輩が、その先輩に、
「オメエ、風呂入ってねえんじゃねーの」
 と、ふざけた口調で言った。言われた先輩は、
「入ってんよ。よく洗ってっけど、風呂じゃ出ないだよ」
と、言った。玄さんは何も言えなかった。

 数日後——。
やはり部活の最中に、その先輩が玄さんに言った。
 夜寝ていると、飼い猫が背中に乗って、首を凄い勢いで引っ掻いた。
 幸い傷は無く、それ以来変な垢も出なくなったのだという。
 今も赤い垢の原因は全く分からないままだ。


この話の呟き怪談バージョンを読む

0 件のコメント:

コメントを投稿