玄さんの高校時代の先輩の話である。
「変な色の垢が出るんだよなあ」
部活の時に、その先輩が玄さんに言うともなく呟いた。
首筋をぼりぼりと掻く。
「どうしたんスか?」
玄さんが訊くと、先輩は今しがた首筋を掻いていたその爪を確認すると、
「ほれ」
と、言って見せてくれた。爪の間に真っ赤な垢のようなものが溜まっていた。
「これ、血ぃですかね?」
玄さんは先輩の首の後ろを覗き込んだ。日焼けした首筋には、うっすらと白く、引っ掻いた跡が付いていたが、傷も血も着いていなかった。
「血じゃないんだよな」
先輩は爪の間に溜まった、その赤い何かを爪でほじくり、グラウンドの土に弾いた。
「変だろ」
先輩は玄さんに言った。
部活が終わり、チームの皆で学校の近所の駄菓子屋でアイスを食べながら、その話になった。
一人の先輩が、その先輩に、
「オメエ、風呂入ってねえんじゃねーの」
と、ふざけた口調で言った。言われた先輩は、
「入ってんよ。よく洗ってっけど、風呂じゃ出ないだよ」
と、言った。玄さんは何も言えなかった。
数日後——。
やはり部活の最中に、その先輩が玄さんに言った。
夜寝ていると、飼い猫が背中に乗って、首を凄い勢いで引っ掻いた。
幸い傷は無く、それ以来変な垢も出なくなったのだという。
今も赤い垢の原因は全く分からないままだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿