秋本さんは、東京と神奈川の境目近辺に住んでいる。
この辺りは、川沿いに自転車道路が整備されている。秋本さんが大学に行く時にも、その自転車道路はよく使った。クロスバイクでアパートから大学まで二十分ぐらいだ。バスを乗り継ぐより早い。
ある年の七月の初旬、アルバイトを終えた秋本さんは、その自転車道路を愛車で走っていた。丁度日付の変わる頃で、自転車道はほとんど誰もいなかった。急ぐ訳でもないので、ゆっくりと流していた。
ん?
蛍光灯の街灯で照らされた川面に何かがいた。
ブレーキを掛けて停まった。ざぁーっと水の流れる音が耳に響く。虫の声がしていた。
——なんだ、あれ
淵に、子供程の背の何かが立っていた。
それはどうやら裸のようだった。裸の子供のようだが、こんな深夜に子供が川の淵にいるだろうか。自転車道路から水面までは五メートルはある。
自転車から降りて柵ごしにじっと見ていると、次第に目が慣れて来たのか、様子が分かって来た。一糸まとわぬ裸だ。しかしそれは人間ではなかった。街灯に照らされた肌は、ぬるっとした緑色。で、そこに濃い色の楕円がいくつも描かれている。
河童?
秋本さんはその子供のような生き物は、河童だと確信した。他に何か近い生物を思い描く事はできなかった。
それは二本足で川の真ん中に立ち、水の流れを伺っていた。魚か何かを狙っているのかもしれない。
だぽん。
それは急に川に飛び込んで消えた。しばらく待っていたが浮いてこなかった。
その川は今でも河童の目撃談があるという。
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